私地獄

twitter:@ataso00

弟の巣立ち

弟が家を出てしまう。この中途半端な時期に決まったのか。しかも、男友達5人でルームシェアをするらしい。凄い。他人と一緒に暮らすという選択肢が、彼の中にあるだなんて思いもしなかった。

「ねえ、弟が家出ちゃうみたいなんだけど…。」と母親に言われたのは数日前。連日、仕事や飲み会で終電に乗って夜遅くに帰宅していたけれど、この日は久しぶりにまっすぐ家に帰った。自室に荷物を置き、キッチンへと向かうと母親がすでに家にいて、夜ご飯を作っていた。
私の顔を見るなり、「あのね」と切り出され、弟が家を出ることを告げられた。そしてオマケみたいに「おばあちゃんがアルツハイマー気味みたいなんだよね~でも一回病気でぶっ倒れたから薬飲めないんだって~どうしよ〜」ということも能天気に伝えられたのだった。それ、一気に言うのか……。相変らずだな、と思う。


私の家族は、同じ屋根の下に住んでおきながら基本的に最低限のコミュニケーションしか取らない。食事も一緒に取らないし、連絡先も知らない。やり取りは置手紙くらい。「お味噌汁飲んでね」とか「今日は家に帰りません」とか。「なんか、会うの久しぶりだよね」という話からはじまり、たまに親族の暗く重いニュースをさらっと伝えられる。最近は母親の仕事の愚痴を否定も肯定もせず、「うんうん」と聞いたりもする。家族単位で考えると仲が悪い訳ではないんだろうけど、多分少し変だ。でも、私にはちょうどいいし、こんな家族の中で育ったので、私も人との距離の測り方や相手への思いやり方が下手くそになってしまったのだと思う。


育った環境のせいなのか、昔から「変わってるよね」「面白いよね」と言われてきた。でも私は、自分でそうは思わない。かなりまともな方だと思っている。なぜなら、すぐ近くにもっと変な人がいたから。それが、弟だった。母親もずいぶんと頭のぶっ飛んだ人ではあるけれど、更に変な弟。思考回路が読めた試しがない。

色んな人が私のことを面白がってくれ、色んな人が色んな人を紹介してくれるようになった。靴下を履いていないとセックスが出来ない人、男性限定の乱交パーティーに参加しまくっていた人、複数のキャバ嬢から支援してもらった金で遊びまくっているヒモなど、本当に色んな人と知り合ったし、恐らく顔は広い方だと思う。周囲に「この人、変だなあ。面白いなあ。」と思う人も多い。でも、彼らの話をよくよく聞いてみると、筋が通っている。話もなぜその発想に至ったのかもなんとなく理解ができる。比較するうえで少々内容がズレるかもしれないけれど、大きな意味で私は弟より変な人に出会ったことがない。


今年の冬も、相変らず様子がおかしかった。ある寒い日、お風呂から上がった私は、弟に「次、お風呂に入れるよ」ということを伝えようとノックをし、彼の部屋のドアを開けた。


白い粉だらけだった。部屋中が。

「これ、どうしたの?あ、あとお風呂入っていいよ。」と尋ねると、「臭いが気になるから」とのことらしい。室内の消臭効果を狙って、部屋中に白い粉を撒いたようだった。タバコ、吸ってるもんね。しかもピース。おっさんか。

部屋の臭いが気になるという問題にぶち当たった時、人はどのように思考を巡らせれば「白い粉を撒く」という答えに辿りつくのだろう……。
こうして文章にしてみると明らかにおかしいのだけれど、私は彼の奇怪な行動に対してすでに慣れていた。その時は「そっか~」と一応納得し、扉を閉める。気が付くと部屋がきれいになっていたというのも不可解だった。今は跡形もない。あの白い粉は一体何だったんだろう……。

また、弟の部屋には暖を取るための電気ストーブがある。エアコンの本体はあるのだが、リモコンを紛失してしまったらしい。電気ストーブが来るでは、極寒の中でネットゲームに明け暮れていた。
母親が「部屋にストーブ買ったら?」と提案をするも、我が弟は頑なに買おうとしない。あの黒い電気ストーブは、憐れみの意味合いも兼ねて母親が買い与えたものだった。いいな。私の部屋にストーブはなく、エアコンで肌をバシバシに乾燥させながら部屋に籠っていたので。

そんなある日、些細な用事があったため、弟の部屋のドアを開ける。分厚いダウンジャケットを羽織りながらネットゲームをしていた。帽子まで深く被っている。しかしなぜか窓が開いており、ストーブはついていない。「寒くないの?」と尋ねると、「寒いよ」と言いながら窓を閉める。窓はね、開けるの寒くなるんだよ。なぜこの寒い日に窓を開けていたんだろう。恐らく理解ができないので、尋ねるのも辞めた。「ストーブ、付けないの?」と尋ねると「うーん」とのこと。答えになっていない。
私は、あの電気ストーブが使われているところを見たことがない。多分、ストーブを付けると暖かくなるという知識が彼の中に備わっていなかったんだと思う。やっぱり変な人だった。


アマゾンで干し網を購入し、いきなり部屋で干物を作り出したこともあった。私と弟の部屋は隣で、少し生臭さが漂ってくる。やめてくれ。この時期は、冷蔵庫も干物やキッチンペーパーに包まった何かしらの肉の塊だらけだった。今思い返すと干し肉も作ろうとしていたのか……。食べてはいない。
干物を作ろうという発想も「相変わらずだなあ」と思っていた。
しかし、それだけじゃない。何故か部屋に干し網がかかっている風景を何枚も何枚もスケッチし、壁に同じ構造の絵を4~5枚飾っていたのだった。

干物を作るのは、まあ分かる。趣味としてスケッチをするのも、分かる。でもなんで、部屋で魚を干しているところを何枚も何枚もスケッチし出したんだろうか……もちろん、彼に絵画の嗜みはない。下手くそだった。現在、干物ブームは過ぎ去った様子。


また、会社から自宅に帰り、化粧を落としていると、弟の部屋から「カチ、カチ、カチ……。」と不審な音がすることがあった。母親が大層不審がり、弟をリビングまで呼び出す。

「これ、なんの音?」

メトロノーム

「なんで買ったの?」

「音がいいな、と思って」


えー、すごい。音がいいな、と思ってメトロノームって買うものなのか。発想になかった。
弟に楽器の嗜みはないけれど、今でもたまにメトロノームの音を聴いていたりする。結構うるさいんだよなあ、メトロノームの音って。


「眼鏡がなくなった!」と一緒になってリビングや部屋を探していたら、数日後に庭で見つかったこともある。スニーカーを片方紛失したらしく、片方靴下で帰ってきたので理由を聞くと「脱げたらなくなってた」と言われることもある。朝も弱くて、なかなか起きない。大食漢で、飲食店などの大食いチャレンジも大体クリアしてしまうらしい。昔からよく食べていたもんね……。

「甲羅で守れるから」という理由で、小さな頃の将来の夢は亀だった。亀か。子供が将来なりたい職業ランキングで、どれくらいの順位なんだろう。
普段から無口で、何を考えているのかよく分からない。でも私たちは昔から仲が良かった。ゲームが好きで、一緒に星のカービーやポケモンロックマンエグゼをやったりした。弟の影響で、遊戯王デュエルマスターズも覚えた。漫画の趣味も同じで、スラムダンク幽遊白書ドラゴンボールなどが好きだった。買った漫画を交換し、読み合っていた。弟も弟で、BUMP OF CHICKENフジファブリックsyrup16gTHE NOVEMBERSの音楽を好きになってくれた。私のCDラックから勝手に取り出し「これ、かっこいいね」と言ってくれた。(私は部屋を漁られようが、カバンに手を突っ込まれようが、iPhoneを勝手に見られようがあまり気にしない)一度だけTHE NOVEMBERSのライブにも連れて行ってあげたこともある。「よかった」と言っていた。嬉しかったな。

たまにお酒も買ってきてくれる。「これ、どうしたの?」というと「買ってきたから」と答えてくれる。かわいいなあ、好きだなあ、この子が弟で良かったなあ、なんて普段あまり話をしない癖に思う。


最近アルバイトを再開したようで、「今日、遅かったね。学校忙しいの?」と聞くと「バイト」という。「また、新しく始めたんだねえ。頑張って」と言うと、「あそこの駅に、あのカラオケ屋があるでしょ?そこで働いてるの」と教えてくれる。本当に些細な受け答えではあるけれど、答え方もかわいいなあと思う。友達には「おれ」と言うのに、家族には「ぼく」と言うのもすごくすごく良い。


弟が家を出て行ってしまう。純粋に寂しいな、と思う。大丈夫かな、心配だな、という気持ちもある。でも高校の時、いきなり正月に富士山まで初日の出を見に行ったり、大学に入学してから「バイト始めたんだよね」と言い出し話をよく聞いてみると子供用テーマパークのスタッフとして働きだしたりしていたくらいだ。家では全く話をしないのに。私が見たことなくて、家族である以上知る事のできない一面がたくさんあって、どんな環境でもそれなりに上手くやっていくんだろうなあ。

そして、母から弟が家を出ることを知らされてから数日経ち、その間弟と何度か会うことはあった。まだ私には話をしてくれないし、多分家を出て初めて「今日出ていったんだな」と気が付くんだと思う。そんな気がする。連絡先も知らないし、大学で何を勉強しているのかも、忘れてしまった。でも、何週間に一度くらいは弟のことを思い出して、ほんの少しだけ心配しながらなんとなく暮らしていくんだろうな。こういううっすらとした繋がりが、私の家族っぽい、と思う。

 

f:id:ataso01:20170414151918j:image先日見たBoris。あの音が全く聴こえないアコーディオン、一体なんだったんだ!?

f:id:ataso01:20170414151937j:image生ゆばの写真です。神奈川県民は小学6年生の修学旅行で栃木に行き、必ずゆばを食べる。

f:id:ataso01:20170414162944j:image「刺身三点盛り」を頼んだら出てきた。私の「三」という数字の概念が崩壊した瞬間だった。下北沢の「宿場」という居酒屋も沢山刺身が出てくる。刺身業界の「三点盛り」は、七点盛りを意味しているのだろうか。


明日は友人と1泊2日の小旅行に行ってきます。楽しみ。誰かと旅行するの、多分4年ぶりくらい…。
2週間後はキューバに行きますが、何も準備していない。ユーロやカナダドルのレートが良い銀行・会社などがあれば教えていただきたいです。